はじめに
ゾンと呼ばれるブータンの美術や工芸品ほど,人目を引きつけ,作品自体から宗教の教えが感じられ,具体的で伝統ある美術は他には無いでしょう。巨大な壁からは,基本的な美しさから想像もつかない究極の美しさまで備わっています。特に際立って目を引くのは,宗教的な人物を描いた絵画や彫刻です。色彩豊かで細やかなイラストは,善と悪の間で苦しむという寓話をうまく表現しています。ブータン美術や工芸品を作る工程には3つの特徴があります。 宗教的であること,作者は伏せていること,そして一定の特有のスタイルが存在するということです。特有のスタイルというのが,本質的な美を目標としているわけではなく,歴史的な仏教の本心を表現できるかいう所にあります。
ブータンでは華美な美学と(美と感じ人もいるでしょう)もっと実用的な美学の違いはあまりはっきりしません。職人たちは,アーティストとして美学を追求(斬新さに力をいれるなど)するより,その技術(伝統にのっとり作品が作られているか)という観点で作品を作り上げるからです。ブータンの美術のスタイルは,何世紀にもわたって,チベットデザインの影響を受け続けたため,ブータン独自のスタイルというよりは,チベット寄りの要素が多いといえます。
このような伝統的な仏教に基盤をおいたブータン美術の特徴は,他の美術や工芸品とは違った良さが見られます。伝統が過去の作品にも近年の作品にも,絵画にも工芸品にも同じように反映されています。特に優れている点は,その正確性です。多少の誤差があったとしても,古い作品と新しい作品には本質的な違いがないほど,伝統がきちんとつたわっているのです。職人は永続する伝統に基づき作品を作り上げます。他の地域とは異なり,ブータンでは観光用に工芸品を作ることは無く,観光用に売られている商品は,地元の人が日常的に利用するものでもあり,宗教的な儀式に使われるものと同様のものです。
しかしブータンの伝統工芸は,近年,新しい工芸品に脅かされています。特に日用品に関しては,海外で作られた安い商品が,伝統的な手芸品の需要を減らしています。さらに若い世代は伝統的技師になるより,他のキャリアに目を向けるなどしています。このような問題に直面したブータン政府は価値ある伝統を壊さないよう,さまざまな対策を立てています。国としての大切な文化財を守るため。